『炎628』-来たりて見よ、「戦争」を(後)

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『炎628』は圧倒的な映画体験をもたらした。
今まで観たどの戦争映画よりも戦慄し、たった一度の鑑賞で傷跡を残した。
泣き叫ぶ声や笑い声、爆発音に建物が壊れる音、銃声、そしてノイズの入り混じったような劇伴が耳から離れず、
少年、少女、兵士、登場するすべての人物の顔が繰り返しまぶたに写った。
布団に突っ伏して云々という「何もしたくない」ではなく「何もできない」状態に陥った。
いわゆる「鬱系映画」でずーんとした余韻に浸って布団に伏している時、それは快楽を味わっているのだったと気づいた。

(以下、映画の内容に入ります。具体的な部分には極力触れないようにしたつもりです。)

この映画は主人公の少年の動向をひたすら追う。
なぜこのようなことが起こったのか、など状況を説明するようなことはほとんどない。
知ることがあれば、それは少年が知る時。
たとえ唐突に見えることであっても、「起こりうるべくして起きた」という説得力に組み伏せられる。
また、ショッキングシーンのオンパレードとも言えるけれども、これみよがしな写し方はしない。

爆撃を逃れた少年と少女が、村に戻る。
家族がいない、隣人がいない、いや人気がない。
「きっとあそこに逃げているんだ」
少年が走りだす。
少女が慌てて追いかけ、ふと村のほうを振り返ると…。
さりげなく映される「それ」にぞっとする。

虐殺、凶行などのショックシーンではなく、妙に落ち着いて見える場面であっても、狂気や殺気が画面を漂い、観ているこちらの気が狂いそうになってくる。
どこかのレビューで「非常時特有の空気」ということばを見かけたのだが、まさにそれだと思った。
これは明らかにおかしいぞ、異常事態が起きているはずなのに平然とした感じだ、という場面。
有名な終盤のナチス特別行動隊「アインザッツグルッペン」の凶行シーンの、その残虐さは確かに傑出していると思う。
しかし、それまで漂っていた空気と状況が合致し、ある意味では「安定」しているといえる。
『炎628』がここまでのインパクトをもたらすのには、何も起きていないのに怖い、空気の「おかしさ」が現れているところにあると思う。
森のなかで少年と少女が笑い合っていても、心がざわついて仕方がない。

もう一つ重要な要素は「顔」だ。
主人公の少年をはじめとして、登場人物がじっとカメラを見据えたショットが多い。
膨大なエキストラも出てるのだが、その顔の一つ一つに、狂気にさらされた疲弊や、あるいは狂気そのものであったり、
「戦争」が刻み込まれているように感じられてならない。
顔が「死んでいる」と言ってもいいかもしれない。
序盤、パルチザンが記念写真を撮影するシーンで、何十人もの兵士が穏やかな雰囲気のなか、
かぶらないよう位置を調整したり、ポーズをとったりしてこちらを向いている。
こんなシーンですら妙に怖い。

とりわけ主人公の少年の「顔」は凄まじい。
極限状態での恐怖やストレスが焼きつき、文字通り顔が「変貌」する。
その変貌ぶりに、想像を絶する戦争のおぞましさを感じ取らざるをえない。

…とここまで書いてきたが、相当な苦痛を味わうものだと伝わっただろうか。
これを読んで観たい!とはなかなか思えないかもしれない。
僕は確実に観て良かったと思っている。
「こんなの観たくない!」
その気持ちもわかる。
僕だって『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観て「V8!V8!」しているときのほうが幸せだ。

けど、『炎628』を観るのと観ないのとでは世界の見え方が違う。

僕らは戦争を知らない。
「戦争なんて知らなくていい」、それでは済まされないような事態になっている。
ファシストめいた一国の長が、おかしな舵取りをしている。
いまの方向に突き進むとどうなってしまうのか。
「NO」とどれだけ力強く言えるか、それは戦争がどれだけの地獄であるか、どれだけ戦争が「クソ」かを
感覚として理解していることにかかっているように思える。

原題は『Come and See(来たりて見よ)』。

脚本家の実体験を基に作られた本作、ここまで地獄をさらけ出すのには相当な覚悟と気力が要ったはずだ。
そして、結末で少年が至る境地は、わずかながら、大いなる気づき。
この映画を製作した人たちの「願い」として受け止められる。
もちろん、衝撃の映画体験を与える極上のエンターテイメントであるという前提を踏まえた上で、
ぜひこの素晴らしい戦争映画を、特に若い人に観て欲しいと僕は思う。
現実に起きてほしくない未来だからこそ、映画で観てそうならないようにしたいじゃないですか!

(追記)
観終わった後、ふと「もし爆音映画祭で初見で観てたら確実に変調をきたしただろうな」と思った。
やってた…!

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